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株式会社きよせ・株式会社いちの

増収増益の“生和菓子”老舗企業が事業承継型M&A 創業3代目の「決断」ポイントとは?

譲渡企業譲受企業
㈱きよせ・㈱いちの㈱地域共創基盤
愛知県神奈川県
食品製造・卸・小売事業承継支援
スキーム 株式譲渡

生和菓子を中心とした菓子のOEM(相手先ブランドによる生産)製造、販売を行う「きよせ」(本社・愛知県一宮市)と、カフェコーナーを併設した自社ブランドの生和菓子を企画、販売する「いちの」。いずれも順調な業績推移を示していながら、玉腰武司社長(45歳)は両社の株式を地域共創基盤(本社・神奈川県茅ヶ崎市)に譲渡しました。玉腰社長は新体制でも引き続き、両社に役員として残り、新たな環境で腕を振るっています。譲渡直前に「株式譲渡を迷った」という玉腰社長の背中を押したのは知人の助言でした。

 

同業他社の追随を許さぬ独自の冷凍技術

今回の譲渡対象となった「きよせ」と「いちの」の創業の経緯を教えてください。

きよせの歴史は、祖父が1935年に創業したベーカリーから始まります。その後、ドーナツ製造を経て製菓に軸足を移しました。1994年に法人化し、2011年に引き継ぎました。社名は俳句の「季寄せ」(歳時記)に由来します。四季折々の移ろいを表すという和菓子の特徴を込めたもので、私が専務時代に父親に提案して決めました。

いちのは2017年の設立で、本拠を置く一宮市にちなんで命名しました。きよせがOEMで大量生産を志向しているのに対し、いちのは地元の食材を使った高級な自社ブランドの生和菓子を提案しています。店頭販売だけでなく、カフェコーナーを併設しています。

きよせの強みはどこにあると考えていますか?

製造業としてのきよせに着目すると、多品種少量の生産体制を整えていることが、もっとも大きな強みだと言えるでしょうね。きよせの規模は町工場をふた回りくらい大きくした感じですから、小口の要望にも応えられるのです。

これまでの社歴で培ってきたノウハウとそれを形にする設備があるので、様々な注文を受けることができます。OEMとして取引のある会社は、ざっと20社ほど。創業以来、重ねてきたトライアンドエラーから生まれた商品はたくさんあります。

恐らく同業他社の追随を許さないのは、冷凍技術です。通常の生菓子の保存期間よりも長期間に渡り、品質を落とさずに保存できる技術があります。設備によるものではなく、材料の配合を工夫することによって可能になった独自技術です。

これまでの事業運営のなかで、どのようなやりがいや苦労がありましたか?

母体であるきよせから、いちのを生み出したことに象徴されるように、社長としてやりたいことが自由にできたのは大きなやりがいでした。引き続き勤務しながらも、立場が変わったいまだからこそ見えてきたことです。

半面、立場が変わってみると、思っていた以上に大きなプレッシャーを感じていたのだということもわかりました。特に苦労と感じていたわけではありませんが、俗に言うヒト・モノ・カネの折り合いをどうつけていくかには絶えず気を使っていたように思います。ヒトは辞める、モノは動かぬ、カネは回らぬ、という状況には何度も見舞われました。

プロ経営者としてのスキル不足を痛感

順調な業績であるにもかかわらず、譲渡を検討して、決断した理由は?

これまですべて自分ひとりで取り仕切っていたのですが、業容の拡大に伴って、その道のプロに委ねる割合が増えてきました。そうすると、自分を客観視したとき、経営者のスキルが不足していると悟ったのです。言い換えると、これまで自分のしてきたことが役職ではなく役割であることに気づいたのです。

取引規模の拡大に応じてヒト・モノ・カネの規模が裁量を超えるほど膨らんできたために、自信を失いかけたことも一因です。先行きを考えたとき、自分の引き継いできたバトンを託せる後継者が社内からも家族からも見つからなかったことも決断を促しました。

改めて今回の譲渡決断までの過程を振り返ってみると、どうでしたか?

率直に言って、迷いはずっとありました。従業員の処遇を含む会社の将来のことを考えると譲渡が賢明な策であることはわかります。その一方で、社長を続けたい。そういう気持ちの葛藤です。仮に両社が合意して譲渡にこぎ着けたとして、譲渡先とうまくやれるかも不安でした。うまくいかなければ、引くのは自分のほうだからです。

実は当初、きよせといちのを切り離して交渉しようと考えていました。祖父がつくったきよせとは違い、いちのは私にとって、子ども同然だからです。できれば、手元に置いておきたい。しかし、協議は「セット」が前提です。悩んだ挙句、知人に相談すると「可愛いときにしか、もらってもらえない」と諭されました。確かにそうです。結果的に、その一言で気持ちがスッキリしたように感じました。

二人三脚で歩める雰囲気の会社に決めた

一連の交渉を通じて、新たな発見や心境の変化はありましたか?

今回は4社と協議し、2社から金額の提示を受けました。自分自身も力を発揮できる関係を望んでいたので、二人三脚で歩める雰囲気のある会社を希望していました。

併せて、当社に欠けている人の教育とか組織づくりとかが得意な会社と手を組むことを最優先にしました。そのため従業員の雇用を確保してほしいことは最優先事項として伝えました。私に関しては、いちのの商品開発と営業に携わりたいという希望を出しました。

譲渡先は、中小企業の経営支援に取り組むCFOジャパンのグループ会社「地域共創基盤」(本社・神奈川県茅ヶ崎市)です。決め手は、何でしょうか。

地域共創基盤様にとって、当社は2つ目の事業承継型M&A案件です。第1号案件は創業137年の老舗小売業の事業継承です。最初のプレゼンで、先方から1号案件の元社長が引き続き、新体制でも関与していると聞かされました。そういう仕組みを面白いと思ったと同時に信頼感を持ったことが大きいですね。

譲渡した以上、元社長は譲渡した会社の経営に関与できないのが普通だと思います。実際、譲渡したあとで会社の仕組みや中身をどのように変えられても文句は言えません。しかし、今回の譲渡先の社長はそれをしなかった。交渉の過程を通じても、そういう気持ちは伝わりました。このことが大きな決め手になったのは間違いありません。

譲渡について、家族や従業員にはどのような話をしましたか。その反応は?

父は抵抗しました。代々つないでほしかったという思いが強かったからです。母は好きにしなさいと。従業員には譲渡完了後に打ち明けました。2年間は解雇や減給をしないという内容が盛り込まれていることも伝えました。そのうえで「私が至らなかったことをきちんとしてくれる方に次を委ねました。これまでできなかったことを形にできると思われる方を引っ張ってきたので、一緒に頑張りましょう」と伝えました。

新たな挑戦に向かって歩き始めている

譲渡後も役員として継続勤務するなかで、ご自身が最も取り組みたいこと、実現したいことは?

自分がこの世に出したと自負しているいちのをたくさんの人に知ってもらうことです。お菓子は食べた人を幸せにするアイテムです。それを手掛ける事業者として、たくさんの人を幸せにしたい。結果的に利益を生み、従業員を幸せにすることにつながると思います。

これまでは社長として主に数字を中心に考えてきましたが、それは新しい社長にお任せして、いちのの商品やブランドがより知られるような手立てを講じたいと考えています。人の「幸せ値」を高める仕事に打ち込んでいけば、数字は後から追っかけてくる。そういう取り組みができるといいなと思っています。

地域共創基盤への譲渡に満足していますか?

もちろん、非常に満足しています。誰が何と言おうと。半面、その気持ちが強いだけに喪失感もあります。端的に言えば、挑戦をやめてしまったのではないか、苦しいことから逃避したのではないかという自問です。

しかし、選んだ道なので、いまはその選択を「正解」にするための努力をしています。挑戦をあきらめたのではなく、新たな挑戦に向かって歩き始めた。あとで振り返るとき、そう思えるような生き方をしたいですね。

地域共創基盤に期待していることはなんですか?

もっとも期待しているのは、会社を大きくすることではなく、私も含めて現場で働く人たちが幸せと感じる会社を構築してほしいと思います。やや抽象的な言い方になりますが、従業員の誰もが「きよせやいちので働けることを幸せと感じられる」ような会社にしていただきたいですね。

構想よりも5年前倒しとなった株式譲渡

M&Aを進めるにあたって、なぜ仲介にインテグループを選んだのですか?

一言で言えば、ご縁とタイミングです。こういう選択をする時期は遅かれ早かれ来ると考え、情報収集をしていたときに見つけたのです。構想では5年後を想定していたのですが、結果的に5年前倒しになりました。

はじめは半ば興味本位で、そのころの資産価値を確かめるくらいの気持ちだったのですが、相談の段階でもきちんと親身に対応していただけたのが嬉しかったですね。結果的に、私がアクションを5年早めてもいいと思うような出会いを持ってきてくれたことには感謝しています。

担当者の対応に満足していますか?

100点満点で採点すれば、もちろん満点です。交渉の過程では、私の希望と先方の考えをうまく調整していただきました。ですから、大きくもめたりしたことはありません。そうならないように、きめ細かく動いていただいたことには感謝しています。

先方との調整ばかりでなく、私に対するフォロ―も抜かりなく進めていただきました。資料づくりなどで行き詰まると“神業”で助けてももらえました。レスポンスの速さには驚かされました。したがって、減点の要素は何ひとつありません。

いま売却を検討している経営者にメッセージをお願いします。

悩んでいる間は本当に苦しいものです。だからこそ、インテグループさんのような組織が必要だと思います。他人の力を借りるのは決して悪いことではありません。自分に足りないものを補うための作業なのですから。M&Aはその解決策のひとつです。決してネガティブな選択肢ではないことを経験者の1人としてお伝えしたいと思います。

インテグループ担当者からの一言
創業3代目社長が老舗企業を事業承継支援会社に譲渡し、相乗効果が期待される事例
きよせ様は長年培われてきた技術の蓄積により、さまざまな製造ノウハウや独自の冷凍技術を強みとする、菓子OEM製造、販売を行う老舗企業です。増収増益を続けてきましたが、さらなる成長・発展と後継者問題解決のため、生和菓子企画、販売のグループ会社、いちの様とともに、地域共創基盤様への経営権譲渡を創業3代目社長がご決断されました。
売主様の「技術力」「ブランド」と買主様の「経営改革力」により、大きな相乗効果の発揮を期待できる良縁だと思いますので、今後の益々のご発展を祈念しております。
コンサルティング部
マネージャー 高村 理