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株式会社さまあ

ポテンシャルはあるけど、いま売るのは…静岡のエンジニア数名のソフト開発会社が下した決断

譲渡企業譲受企業
㈱さまあ西川コミュニケーションズ㈱
静岡県愛知県
システム開発マーケティング・AI・プロモーション
スキーム 株式譲渡

「VR(仮想現実)」「AR(拡張現実)」「MR(複合現実)」などの3D技術に強みを持つ社員5人のソフト開発会社さまあ(本社・静岡市清水区)は、2023年6月に多治見卓社長(63歳)が保有する全株式を、マーケティング・プロモーションなどを手掛ける西川コミュニケーションズ(本社・名古屋市)に譲渡し、グループ企業の一員となりました。息子もエンジニアとして勤務する自社を譲渡する決断を下した多治見社長に、契約に至るまでの経緯とその心境を伺いました。

 

「あたりまえのことはしない」を公言

創業の経緯と、業務の概要を教えて下さい。

時代を革新してやるという意気込みで、数多くの3Dゲームの研究開発を手掛けて活躍したことが縁で、外資系企業でゲームクリエイターとして働きました。海外勤務を経た後、2007年に自分のキャリアを活かしたことをやろう、と静岡県に移って起業しました。起業した時点で47歳でしたから、誰に遠慮することもなく好きなことをやろうと、もっとも得意なゲームアプリの世界でまず仕事を始めました。

フリーウェアで作ったアプリを世の中の人にダウンロードしてもらい、自分を知ってもらうことが最初のステップ。当初は無料のゲームソフトばかりで、最初の3年間は売り上げゼロです。売上に繋がる話はなかなか来ませんでした。貯金も次第に目減りして一時はじり貧状態に陥り、博打要素満載のゲーム開発とは真逆の手堅いシステム開発も受託するようになりました。

自ら築いた縁を通じて雇用した社員は、現在5人。私と同様にゲーム・エンタメ系の開発を志す者ばかりです。「あたりまえのことはしない」と公言して、どんな仕事が来ても「できません」とは絶対に言わないのが強みです。いま32歳の息子も含めた彼らは皆トガっていますし、この分野で経験を積んできた実績があります。

譲渡を決断した経緯を教えてください

私がゲーム業界を志した30代のころ、当時はまだ浸透していなかったVRへの憧れがありました。ゲームの世界ととても親和性が高い世界観です。それで8年前の2015年、全社員総動員で完全自社オリジナルのVRアプリ開発を1年かけて手掛けました。これは現在も運用中のスマホアプリです。残念ながら売上には直結しておりませんが、アプリに対する各種メディアの注目が非常に良かった。

私もテレビ、新聞、雑誌、ラジオなどひと通りのメディアに出たおかげで、弊社の認知度が上がりました。アプリにも会社にも、お金では換算できない潜在力があることが確認できた。お金こそすぐさま回収はできませんでしたが、このチャレンジは結果的に大成功でした。

そんなわけで、大波小波に翻弄されながらも、いずれはVRの世界で盛り返したいという思いをずっと抱いていたところへ来られたのが、インテグループの松本さんでした。

チャンス到来…実績を作るまで譲渡見送り

仲介会社としてインテグループを選んだ理由は?

インテグループの松本さんとの最初の接触は、コロナが始まって間もない2020年6月にいただいたメールでした。実は、同業のほかの仲介会社数社からも、コロナに見舞われる前からM&Aのお誘いのメールをいただいていました。特にコロナ初年度の2020年には、そうしたメールが毎週のように送られてきました。

ただ、それらのメールはどの会社も一様にいいことしか書いていない。ある会社からはウェブミーティングをリクエストされて、何度かやりましたが、そこでもいいことばかり言ってくる。「いまやれば、これだけお金が入ります」など、儲かる話ばかりなのですよ。それに対して、松本さんには、コロナのあの時期にわざわざ静岡まで来ていただきました。対面でお会いできたというのは、やっぱり大きなことでした。

東京の会社となると、ビジネスライクな付き合いを連想してしまうのですが、松本さんは全然違いました。フェアに考えることができる人、というのが第一印象。初めからかなりリアルというか、現実的な話をされましたね。この人なら信頼できるなと思いました。たまたま同じ大学の出身で、故郷の話で盛り上がったのも大きかったかな(笑)。

しかし、当時の弊社は先ほど申し上げたようなジリ貧状態でしたから、売ったところで思ったような譲渡金は得られない。ただ、ポテンシャルはあるから、いま売るのはもったいない――そう感じていました。

気持ちが変化するきっかけはなんだったのですか?

その直後、上場企業のある電機メーカーさんからVRの開発依頼が来ました。この機を逃してはいけない、最低でも1年、できれば2年かけて最低限の実績を作って企業価値を上げたい――そんな思いを松本さんにそのままお伝えしました。有難いことに、松本さんからは「そういうことでしたら、譲渡は見送ったほうがいいかもしれませんね」と正直なアドバイスをしていただいて。無理にこちらに話を合わせたのではなく、非常に冷静に助言をいただきました。

実際にその後の2年間、この仕事でVRの実績を積むことができたところで、売り時はいまだなと思いました。松本さんのアドバイスにもブレはありませんでした。そこで2022年10月、弊社の譲渡に本腰を入れることにしました。

65歳までに仕事に区切りをつけたいと考えていた私は、当時62歳。そう考えると、リミットはあと2年半。責任を持って次にバトンタッチするタイミングも見計らわなくてはならない。そういう意味で、いまだなと思ったのです。

自社でできなかったことができるように

実際に譲渡した経緯を教えてください。

2022年12月、松本さんから西川コミュニケーションズさんを含む10社に対して弊社の情報を開示していただきました。その中で私が実際にお会いしたのは、西川さんともう1社、計2社でした。

西川さんとの面会の際は、経営と現場、双方の責任者の方と同時にお会いしました。現場の方が技術的にお客さまのニーズに応えられずに困っていて、それが弊社の得意なVRの分野でした。もう1社は弊社より若い会社。話は合いましたし、化ければすごいなという魅力がありましたが、社員の将来のことを考えるとやや不安でした。両社から条件を出していただいてから、最終的にシステマティックで手堅い西川さんを選びました。

2023年3月に持ち株100%譲渡の決断を下し、条件の調整をしたうえで5月に正式決定。6月28日に譲渡を実行いたしました。決め手は譲渡金額ではありませんでした。魅力に感じたのは、弊社ではできなかったことが西川さんに移ることでできるようになる、社員たちの可能性が広がるという点でした。

弊社は、社員たちに世に出るチャンスを作ってあげられなかった。でも西川さんに移れば、弊社ではかかわれなかった世界に横展開でかかわれるし、場合によっては海外に飛び出すチャンスをつかめる。成長の余地が十分あるエンジニア気質の息子に、私のような経営者としての泥臭い経験をさせなくてすむのも理由のひとつでした。

腹をくくって‟マイナス要素“は打ち消した

社員の皆さんの反応は? 不安はありませんでしたか?

契約する直前、社員に1人ずつ打ち明けましたが、「はあ」「ほう」という程度で表情が変わらない。もっとほかに言うことあるやろ!と思いましたが、そういう連中なので(苦笑)。でも、その場で西川さんについて説明していくうちに、全員が前向きであることは雰囲気でわかりました。

もちろん、交渉中は不安だらけでしたけれども、一度腹をくくりましたのでイヤなこと、マイナスに思えることは頭の中からすべて打ち消しました。私自身は譲渡後に引退するつもりでしたが、西川さんから当面は在籍を求められています。弊社の仕事は私の仕切りでトガったことをやってきましたから、引継ぎも簡単ではありません。西川さんが私を必要としている限りは頑張ろうかな、と。あとは自然の流れに委ねるつもりです。

私は会社を設立してからは、自分が納得する道を切り開いてやってきたということに有り余るほどに満足しておりますので、譲渡後は逆にひっそりと緩い人生を過ごそうと本気で考えていました。つまり譲渡後のことはミニマムの条件で考えていました。ですが今はまだ会社から必要とされている、「まだ収入があるのだ!」それだけで十分幸せを感じています。

譲渡直後からこの数か月で自分を取り巻く環境が大きく変革しているのを現在進行形で体験中ですが、すべてが新鮮で刺激的です。これは若いころに感じていた社会の荒波に立ち向かう恐怖とは、全く異なる実にエキサイティングな局面だと感じています。創業してからこの10数年間で培った信念はただ自分を信じるのみ。だからこそ、自分の決断を信じて西川さんグループの一員になったことによる大きな変革はすべてを受け入れることができる用意ができており、楽しくて仕方なく、また何一つ不満はありません。

西川さんにない技術を弊社は提供できる。弊社になかったチャンスが西川さんにはある。いいシナジー効果が生まれるのではないかと思います。いまは「よかった」という気持ちしかありません。西川さんには感謝していますし、ぜひ社員にチャンスを与えてほしい。みんな気概を持っているし、必ず期待以上の成果を出してくれます。

インテグループに依頼してよかったですか?

松本さんには誠実さを感じましたし、インテグループさんには利益にならないことにもきっちりと時間を割いてアドバイスしていただけた。それは大きいですね。ちゃんと弊社のことを考えていただけているというのがわかりました。

売却を考えている、迷っている人たちへのメッセージをお願いします。

譲渡にもいろいろなパターンがあるとは思いますが、欲張らないことですね。お金を求めるだけではなく、残った社員のことをいかに考えるかが大きなポイントだと思います。受け入れ先も不透明なところがなく、社員のことを考えてくれるところでないと。そこをきちんとはからないといけないと思います。あと、創業者として、いままでの人生で十分だという想いを持って、これからの人生は欲張らずに現実を素直に受け入れてゆこうとする心構えが肝要かと思います。

インテグループ担当者からの一言
自社の社員のために、ご子息様への承継ではなく、シナジーのある企業へ譲渡した事例
さまあ様は社員5名全員がエンジニアというシステム開発会社でした。ご子息様も社員でしたが、ご子息様への承継ではなく、第三者への譲渡を決断されました。
西川コミュニケーションズ様は、中部地方をメインに企業のマーケティングやプロモーションのお手伝いをされています。昨今のデジタル化に伴い、VRをはじめとした3D技術を求めておられました。
さまあ様のような、少数精鋭でも自社でエンジニアを抱えている技術力がある会社を必要とする企業は多いです。本件は、譲渡企業の社員の活躍の場が広がるという意味でも、とても良いマッチングが実現できたと思います。
コンサルティング部
シニアマネージャー  松本 直久