譲渡を検討しているオーナー社長のために、会社売却の5つの成功ポイントを説明します。間違いのない事業承継・M&Aを実現するために、是非参考にしていただければと思います。

売却成功のポイント①将来の売却を見据えた経営

「売れない会社はない」というのは嘘です。
「売却できる会社は2割程度」という事実を念頭に、将来の売却を見据えて体制を整えておくことをおすすめします。

具体的には、権限委譲を進めてなるべく属人的な部分を排除し、組織として仕事をする体制をつくる、そして、公私を区別して過剰な節税や私的な取引をやめて、会社に利益を残し借入金を少なくしておくなどです。

もちろんコンプライアンス上の問題があれば、解消しておくようにしましょう。例えば、未払い残業代がよく問題になるので、社労士を入れて、しっかり労務管理をしておくことが重要です。また株式が分散している場合は、株を買い集めておいた方が、M&Aが進みやすくなります。

このようにして企業価値を高め、またM&Aの障壁となりうる問題を取り除いて、買い手が好む状態にしておけば、いざ売却することになった段階で、多くの買い手候補が興味を示し、売り手主導で買い手を選定できるようになります。

売却成功のポイント②売却タイミング

以前の記事で、業績の良し悪しにかかわらず、事業意欲が落ちてきたときがオーナー社長の売り時という話をしましたが、いい条件で売却するためには、業績が伸びているときに売却するにこしたことはありません。
条件をそれほど重視しない場合でも、少なくとも業績が横這いぐらいのときには決断すべきでしょう。売上が下降中だと過小評価されがちですし、さらに赤字に転落となると売却自体難しくなります。

日本の経営者の場合は、年齢や健康問題がきっかけとなり売却を検討することが多いですが、欧米ではタイミングを見計らって、業績が良い時に売却活動を始めることが常識です。

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売却成功のポイント③売却の目的・優先順位の明確化

そもそも売却を考えた理由は何でしょうか?
なるべく多くの創業者利益を得たいためか、それとも会社を存続・発展させたいためでしょうか?売却の目的を大きく2つに分けると、「売却条件を重視するか」あるいは「会社の発展や従業員にとって一番いい相手先を選定することを重視するか」ということになります。

売却を検討するにあたって優先順位をつける項目としては、譲渡価格、スケジュール、オーナー社長の残留の有無(引き継ぎ期間)、従業員の処遇、買い手企業とのシナジー、M&A後の経営方針などがあります。
100%理想のM&Aというのは現実にはなかなか難しいので、譲れる点、譲れない点を明確にしておく必要があります。

売却成功のポイント④ベストの相手先の選定

譲渡先については、まず取引先に譲渡するか、あるいは取引先以外の第三者の会社に譲渡するかということがあります。取引先への譲渡は、「すでに信頼関係がある」という点はメリットですが、「厳しい条件交渉がしづらい」「交渉が破談すれば取引関係に影響が出てしまうかもしれない」というリスクがあります。

第三者に譲渡する場合は、大きく分けて同業に譲渡するか、異業種の会社に譲渡するか(同業と異業種の境目は必ずしも明確ではないですが)ということになります。
同業の会社は事業内容を熟知しているので、経営を任せるという観点では、それほど心配はいりません。しかし、同業の買い手は、たんに顧客や商圏がほしいということになりがちで、一般的にいい条件が出づらいといえます。これまである種ライバル関係にあった同業の会社には売りたくないというプライドの問題もあるかもしれません。

異業種のほうがビジネスモデル全体を評価してもらえるので、いい条件が出やすいのですが、経営を任せて会社の成長につながるか、本当にシナジーを出せるかが不確実であり、また譲渡後もしばらく残ってほしいといわれる可能性が高くなります。

また会社の独自性をできるだけ残したい、譲渡価格を重視して売却したい、一部株式を残して上場をめざしたいというような場合は、バイアウトファンドへの譲渡が有力な選択肢になります。バイアウトファンドへの譲渡については、また別の記事で詳しく説明したいと思います。

これらのことをよく考慮したうえで、ベストな相手先を選定する必要があります。

売却成功のポイント⑤専門家の活用

専門家は必要に応じてうまく使うようにします。「ベストの相手先を選んで譲渡したい」「なるべくいい条件で譲渡したい」という場合は、仲介会社を使ったほうがいいでしょう。
情報力のある仲介会社は、常にあらゆる業種の買い手企業から買収ニーズを聴取しているので、同業以外にも思いもよらない買い手候補を提案することができます。
仲介会社の一番の付加価値は、このようにいい相手先を見つけるマッチングにあります。

すでに相手先が決まっている場合や取引先に売却するのであれば、必ずしも仲介会社を使う必要はありません。
「適正な企業価値を知りたい」「条件交渉の部分だけお願いしたい」「契約書や議事録等の書類の作成だけしてほしい」ということであれば、必要な部分のみ、会計士、弁護士、仲介会社等の専門家を使うこともできます。