親会社倒産の危機を乗り越えて独立へ
どのような経緯で創業したのでしょうか?
JR札幌駅前にあった百貨店「札幌そごう」に売り場を持つ会社に入社し、20代のころからジュエリーの販売に携わってきました。1984年、店舗を子会社化する際に株式会社札幌ミスジュエルの社長として引き上げてもらったものの、1998年に親会社が倒産するという予期せぬ事態が起きましたが、幸い、私の店はかなりの売上を上げていたため、当時の札幌そごうの店長が「独立してジュエリー販売を続けるなら、応援するよ」と支援してくださり、営業を継続できることになりました。ただ、その前に会社が抱えていた1億円の負債を返済する必要があります。札幌そごうを販売拠点に、必死に販売を積み重ねて完済し、有限会社翔に改組しました。その後、紆余曲折ありながらも、顧客や従業員に恵まれ現在の株式会社翔に至ります。
出店していた百貨店から厚い信頼を得ていたのですね。
ありがたいことです。しかし、そこでの営業は長くは続きませんでした。札幌そごうが2000年に民事再生法の適用を申請し、経営破綻したために撤退してしまったんです。札幌そごうは1978年の開業当時からお世話になっていたので、大変なショックでした。
たとえ札幌そごうはなくなっても、駅前の一等地ですから別の百貨店や商業施設ができるはずで、その暁には必ず出店したいと思っていました。しかし、一時的にでも店舗がなくなりアフターサービスを提供できなくなってしまえば、お客さまとの縁が途切れてしまいます。従業員を手放してしまえば、あとから戻ってきてもらうことも難しいでしょう。そこで札幌市内の別の場所に小さな路面店をオープンし、お客さまとの縁を切らすことなく継続したのです。
2003年に開業した大丸札幌店には、オープン時には間に合わなかったものの、さまざまなご縁をたどって翌年にショーケース1台という小さなスペースで出店が叶いました。すでに入居していた競合は15台ものショーケースを並べていましたが、当社が得意とする外商で販売を伸ばし、売り場も拡大することができました。
「倒産させない」が創業来の経営哲学
ご苦労の末に会社を成長させてきたのですね。その原動力となったのが、外商だったのでしょうか?
そうです。いまも売上の6割は外商のお客さまが占めており、厚い信頼を得ていることが最大の強みです。お客さまの多くは地元の富裕層で、ご本人やご家族の記念日や入学、卒業、結婚などのタイミングで、ライフイベントに応じた提案をさせていただいています。忙しくて売り場に来る時間が取れない方に柔軟に対応し、ご紹介や継続購入が広がっていく循環ができています。
長いお付き合いのあるお客さまの中には、お一人で累計数億円もお買い上げいただいた方もいらっしゃいます。その方とは世界各地をご一緒しながら装いの提案を重ね、私自身もさまざまな経験をさせていただきました。
経営者として大切にしてきたことは?
絶対に、会社を倒産させないことです。当然だと思われるかもしれませんが、私は50年近いビジネス人生の中で、親会社の倒産、出店していた百貨店の破綻を経験し、長く事業を継続していくことが当たり前ではないことを思い知らされました。
世の中にはさまざまなタイプの経営者がいますが、私が目指してきたのは会社を生かし続けられる社長です。従業員の生活とお客さまや取引先との関係を守るという責任をまっとうすることが唯一最大の使命だと考え、ここまでやってきました。
加速するビジネス環境の変化に対応できる経営が必要
今回、どのような背景で株式譲渡を検討されたのでしょうか?
6年前に1回、私は経営の一線から退き、長年一緒にやってきた部下に経営を任せました。ところが、その後、その部下が病に倒れてしまい、治療に集中してもらうため、私が急遽復帰することになりました。
私自身、若いころから10年後、20年後の業界がどうなるかを常に思い描きながら経営を指揮してきました。しかし、近年はビジネス環境の変化が激しく、お客さまのニーズも百貨店のマーチャンダイジング(MD)もどんどん変わってきています。
ジュエリーに限らず、どんなビジネスであっても、環境の変化を先取りし対応していく力がなければ、いずれ退場させられてしまうものです。70代を迎えた私には、かじ取りは難しくなってくるでしょう。
長年働いてくれている従業員が今後も安心して働き続け、お客さまや取引先に価値を提供できる会社であり続けるには、信頼できる企業に経営を任せるのが最良の選択肢ではないかと考えるようになったのです。
数あるM&A仲介会社のなかで、どうしてインテグループを選んだのでしょうか?
たくさんの企業さんから、さまざまなアプローチをいただいていましたが、当時の私にはメールの文面やウェブサイトを見ても違いがわからず、どこも同じに見えました。経営者のメッセージや役員の紹介があっても、こうした人が直接担当してくれるわけでもありません。
M&Aに詳しい知人からは、「高い手付金を払った末に、破談になることも多いから気を付けたほうがいい」ともアドバイスされました。信頼できる第三者に間に入ってもらうことは不可欠だと思っていましたが、なるほど、そういうことがあるのかと考えさせられましたね。
インテグループさんは、着手金や中間金の必要がないということで、このような心配がないのは安心できると思いました。そして何より、担当の折田(大晃)さんにお会いして、その人柄と誠実な姿勢にふれ、この人に任せたいと思えたのが決め手でした。
最良のタイミングで理想の譲渡ができた
譲渡までのプロセスにはどんな苦労がありましたか?
デューデリジェンスに必要なデータを揃えることが、いちばん大変でしたね。最近であれば問題ありませんが、何十年も昔のことを質問されたり、データを用意したりするのが大変で、「こんなところまで調べるのか」と驚くことばかりでした。
正直、投げ出したくなったことが何度もあったのですが、折田さんが根気よく付き合ってくれたことでやり遂げられたと思います。M&Aは初めての経験でしたが、そのプロセスのひとつひとつがとても勉強になりました。
2025年9月に、ナガホリへの株式譲渡が完了しました。譲渡先として同社を選んだ決め手は?
ナガホリさんは上場企業としての基盤があり、全国の百貨店における運営実績と商品供給力をお持ちです。宝飾は規模が大きくなるほどマネジメントが難しくなるのですが、規模を拡大しながらうまく運用している希少な企業でもあります。当社も取り引き経験があり、会社の営業方針も理解していたので安心感もありました。
なにより、当社が売り場を持つ大丸札幌店は、2028年に開業25周年を控えていて、そのタイミングで改装や売り場刷新が予定されています。百貨店売り場の運営ノウハウと商品供給力、交渉力を持つナガホリさんなら、売り場やブランド構成が大きく動くチャンスを活かして成長し、当社の顧客基盤と外商力を使って大丸札幌店にも貢献してくれるでしょう。
譲渡がもう少し遅ければ間に合わなかったかもしれませんが、十分な準備ができるタイミングで理想的な譲渡先に巡り合えて大変満足しています。お客さまを大切にし、札幌のマーケットに合うかたちで成果を出していただきたいですね。
譲渡後の手厚いフォローに驚き
従業員の皆さんの反応はいかがでしたか?
当初は戸惑いもありましたが、譲渡先が百貨店での実績豊富な上場企業であることで、安心してもらえたようです。新たな成長機会を得た彼ら、彼女らが当社で培った手腕を発揮し、譲渡先に新たな価値をもたらしてくれると期待しています。
インテグループの対応に満足していますか?
最初は、「こんな若い人が担当するのか」と驚きましたが、いまとなっては折田さんじゃなかったら、途中で投げ出していたと思います。何度も札幌まで足を運んでくれて、仕事の話からプライベートな話まで沢山しましたね。そもそもM&Aの仲介は売り手と買い手を取り持つのが仕事なので、こちらにばかりいい顔をするわけにはいかないでしょうが、そんななかで本当によくやってくれたなと感謝しかありません。
契約が済めばそれでインテグループさんとの関係も終わると思っていたのですが、折田さんは、いまでも頻繁に足を運んで、さまざまな調整の面倒を見てくれています。私も顧問として、1年ほどは会社に残って引き継ぎをするので、手厚くフォローしてもらえて頼もしい限りです。
最後に、いまM&Aを検討している経営者にメッセージをお願いします。
どんな企業にも、社会的な役割と責任があります。私は決して偉そうなことを言える立場ではありませんが、当社が運や人に恵まれて成長し、良い譲渡先にも巡り合えたのは、お客さまはもとより社員や取り引き先を尊重し、社会的責任をまっとうすることを経営の柱としてきたからだと自負しています。企業のかじ取りを担う経営者の皆さんには、自社の責任を果たし、ステークホルダーを重んじる姿勢を貫いてほしいと思います。