売却後にやりたい事業のためになるべく多くの資金がほしい、リタイアしたあとの十分な生活費を確保したいなどが売却理由の場合、少しでも高く売却したいというインセンティブが働きます。
ところで、売り手は自社の価値を過大評価しがちです。それは自分の会社に愛着をもったり、これまでの投資や苦労を価値としてとらえたりするためです。これを行動経済学では「保有効果」といいます。
売り手が高く売りたいのは当たり前で、なぜそんなことをわざわざいうのかと思われるかもしれませんが、じつはどの経営者も高く売りたいと思っているわけではありません。
とくに後継者不在で売却する高齢の経営者の場合は、「価格よりも従業員、取引先を大事にしてほしい」という思いのほうが強い場合も多く、全体で見ても3割程度の売り手は実際には価格にそれほどこだわりはもっていないものです。
これは必ずしも高い価格で売却したいということではなく、自分が育てあげてきた会社や自分の経営手腕、労力を正当に評価されたいという欲求です。
価格の絶対額には十分満足していたとしても、その価格が、一般的な企業価値の相場から見て著しく低い場合は、「不当に低く評価された」「買い叩かれた」ということになり、感情的に売却に応じないことがあります。
たとえば、対象会社が利益を出しているにもかかわらず、買い手がその会社の純資産額を下回る価格で買収オファーをすれば、もともと価格にはそれほどこだわりをもっていない経営者でも、そのようなオファーを断ることが多くなります。
いいM&Aとは、「自分にとって条件がいい」ではなく、「残る従業員や取引先にとっていい」または「世間体がいい」M&Aということです。
まだまだ日本では、売却=身売りと世間から見なされることもあるので、そのような目で見られないように、従業員にとっても雇用が安定し、待遇改善やキャリアアップがはかれるような相手先と一緒になることを望みます。
また、取引先に対しても安定したサービスが維持され、世間に対しても大義名分が立つM&Aを望みます。
業績不振で資金繰りに窮していて、早く資金投入してもらう必要がある場合もあります。
買い手は、このような会社を買収するかどうかは死活問題ではありませんが、売り手には売却できるかどうかは死活問題であることもあります。
そのような業績不振企業でなくても、一度売却プロセスに入り、買い手との交渉が始まると、売り手の経営者の心労は、想像を絶するものがあるようで、多くの人が「早く決着してすっきりしたい」というようになります。これは当事者になってみないとなかなかわからないものです。
トップ面談の席上で買い手からスケジュールの希望を聞かれたときに、売り手の経営者は往々にして、「とくにいつまでに売却したいという期限はない」と答えますが、これは額面どおり受け取ってはいけません。
売り手は焦っていると思われると、何かすぐにでも売る理由があるのだろうと勘繰られたり、買い叩かれたりするのを懸念し、買い手の前では、本当は早く売却したいと思っていても、正直に言わないことがあります。
売り手には売却活動に入っても、「絶対に足元の月次の業績は落とさないようにしてください」といつもお伝えしますが、売却プロセスに入ると、売却に意識が向いてしまい、経営に身が入らなくなってしまう経営者もいます。
交渉決裂が続くなどして売却プロセスが長期化してくると、時間をかけてもっと多くの会社にアプローチすればいい条件で売却できる可能性があっても、早く決着してすっきりしたいという思いから、多少条件が悪くても現状のオファーを受け入れる経営者もいます。
下の表は、5つの売却理由別に、売り手にどのようなインセンティブが働きやすいかをまとめたものです。
これはあくまで、一般論としての傾向をまとめたもので、実際のケースにおいては、売り手の個別事情を勘案し、どのようなインセンティブが働いているかを評価する必要があります。

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